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大阪高等裁判所 昭和56年(う)1824号 判決 1985年3月07日

本籍

和歌山県那賀郡粉河町大字上田井二九二番地

住居

大阪市住吉区杉本一丁目五番七号

会社役員

藤本信夫

明治三八年一月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五六年七月二〇日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人及び原審弁護人大槻龍馬から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 大谷晴次 出席

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大槻龍馬作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記戴のとおりであって、これに対する答弁は、大阪高等検察庁検察官事務取扱検事竹内陸郎作成の答弁書記戴のとおりであるから、これらをここに引用する。

控訴趣意第三点(訴訟手続の法令違反の主張)について

一  論旨は、まず、原判決は、森本信雄外二名作成の銀行調査報告書(検察官請求証拠番号一三〇)を原判示第一及び第二の各事実認定の証拠としているが、右証拠は、(イ)そのうち所論指摘の個所と認められる記録の証拠書類の部の二、八三七丁に記戴されている「フジ製作所(藤本信夫)」の「信」の字が、紙面が削られ書き換えられたものである形跡が見受けられ、(ロ)毎葉の契印がなく、文字の挿入、削除された個所の認印もなく、(ハ)昭和四六年一月二〇日付の文書であるのに、北拓/大阪(46・3・3調)と記戴された書類がその中に編綴されているのであって、国税犯則取締法(以下国犯法という。)施行規則一二条並びに刑事訴訟規則五八条及び五九条の各規定に違反しており、証拠能力が認められないものであるから、原判決には訴訟手続の法令違反があるというのである。

そこで、記録を精査して考察すると、所論指摘の(イ)ないし(ハ)の各事実は所論主張のとおりであると認められ、右証拠は所論指摘の各規定の適用を受けるものであると認められるが、右証拠は、右(イ)及び(ロ)の点で国犯法施行規則一二条並びに刑事訴訟規則五八条二項及び五九条に違反し、右(ハ)についても、右文書の作成年月日の記戴が真実であるかについて疑いを生じさせるもので、同期則五八条一項に違反するおそれがあるものといわなければならないが、右各規定は文書の成立及び内容の真実性を保証するため設けられたものであると解されるところ、右(イ)及び(ロ)の各瑕疵は、右文書の内容及び体裁並びにその他の証拠に徴し、また、右(ハ)の瑕疵は、右証拠が、その作成方法において甚だ杜撰ではあるけれども、正確にいえば、そのうち記録の証拠書類の部二、九三三丁から三、一〇三丁までの部分が昭和四六年一月二〇日付の銀行調査報告書であり、所論指摘の部分を含むその余は右報告書の参考書類として添付されたものであることが証拠上認められることに徴し、いずれも右証拠の成立及び内容の真実性に格別疑いを生じさせるものではないと認められるから、未だ右証拠を無効にさせ、所論のようにその証拠能力を失わせるほど重大なものではあると考えられないので、所論は、前提を欠き、採用できない。論旨は理由がない。

二  論旨は、つぎに、原判決は、被告人の収税官吏に対する質問てんまつ書一二通を原判示全事実認定の証拠としているが、(イ)右各証拠は、犯則嫌疑者である被告人に対する国犯法一条に基づく質問の結果作成されたものであるところ、右質問に際して供述拒否権が告知されていないから、その作成手続において憲法三八条の規定の趣旨に反しており、また、(ロ)右のうち昭和四六年三月五日付及び同月六日付のものは大阪拘置所において、同月一〇日付及び同月一一日付のものは大阪地方検察庁において、いずれも被告人の勾留を利用して(しかも、本件告発手続以後においてであるかもしれない。)被告人に対する質問が行なわれた結果作成されたものであって、その作成手続において違法であり、右各証拠は右の各点において違法に収集されたもので証拠能力がないから、原判決には訴訟手続の法令違反があるというのである。

そこで、記録を精査して考察すると、右所論(イ)については、右質問に際して供述拒否権の告知があったと認められないことは所論のとおりであるが、右質問手続につき憲法三八条一項の規定による供述拒否権の保障は及ぶけれども、同条項は供述拒否権の告知を義務づけるべきものではなく、右手続について右告知を要するものとすべきかどうかは、その手続の趣旨・目的等により決められるべき立法政策の問題と解されるところ、国犯法に供述拒否権告知の規定はないから、右質問にあたり右告知をしなかったからといって、右手続が前記の憲法の条規に反するものではなく、また、右所論(ロ)については、所論指摘の各証拠の作成経緯は所論のとおりであると認められるが、収税官吏の犯則嫌疑者に対する国犯法一条による質問手続が任意調査であることはいうまでもないけれども、同条の趣旨に反しない限り、本件のようにすでに検察官による強制捜査が開始されたのち、勾留中の犯則嫌疑者に対して質問を行なうことが許されないものではない(しかも、調査のための質問は、国犯法一二条の規定を併せ考えると、告発前に行なわれるのが原則であると認められるけれども、告発後における捜査中においても絶対に禁じられるわけではない。)と解するのが相当であり、右各証拠の作成にあたり国犯法一条の趣旨に反するような質問がなされた事情は認められないから、右手続に所論の違法はなく、右各証拠は違法収集証拠ではないから、所論は、前提を欠き、採用できない。論旨は理由がない。

同第一点及び控訴趣意補充一及び二(事実誤認の主張)について

一  論旨は、まず、控訴趣意第一点の四及び同補充一において、原判示全事実につき、原判示の各年度におけるマッサージ機の製造による各所得は、いずれも被告人に帰属する旨認定しているが、右所得はいずれも株式会社フジ医療器(以下会社という。)に帰属するものであるから、原判決には事実誤認があるというのである。

そこで、所論にかんがみ、記録及び原審証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも併せ考察すると、原判決の挙示する関係証拠によれば、原判決が、争点に関する判断の一において、原審における被告人及び弁護人の所論と同趣旨の主張に対して詳細な理由を附してこれを排斥する旨説示するところは、すべて肯認することができ、所論の点に関する原判示の事実認定はこれを肯認することができるのであって、所論が右原判示の説示に対して種々非難するところは、所論にかんがみさらに検討しても、いずれも採用することができず、また、その他所論がその主張の根拠として挙げるところにかんがみさらに検討しても、右判断を左右するに足りない。右後者について以下若干補足説明する。

(一)  所論は、控訴趣意第一点の四の1において、原判決は、会社が、本件強制調査の段階で、本件所得が会社に帰属する旨主帳していたのに、右の事実を無視して、被告人が公判廷において右主張のとおり不合理な弁解をしている旨判示しているが、右は、曲解であって、原判示の事実誤認の根底をなすものである旨主張するけれども、会社の前記の主張は、本件強制調査開始の二か月余り後の昭和四五年九月付被告人名の上申書によって初めてなされたもので、被告人の供述(昭和四六年三月四日付検察官調書、検察官請求証拠番号二二六及び原審六六回公判)に徴すると、税額を安くするため吉岡耕三(以下耕三という。)が考え出した単なる弁解にすぎない疑いが濃いのであって、右の主張をしたことを以て所論の根拠とするには足りず、所論は採用することができない。

(二)  所論は、控訴趣意補充一の2において、本件は、藤本信一郎(以下信一郎という。)を犯則嫌疑者として調査が始まり、その後、容疑事実が変遷して原判示とほぼ同じ事実により起訴されるに至ったものであるから、右の当初の事実につき収集された証拠は原判示事実の証拠としては証明力を欠くものといわなければならず、また、右のような起訴がなされたのは、信一郎の経歴や性格について査察官に誤解があり、被告人が、信一郎を救いたい、本件を企画した娘婿である耕三の名を出したくない気持から、査察官の意向に迎合して虚偽の供述をしたためであって、被告人の調査及び捜査段階における自白は信用できない旨主張するけれども、当初は、信一郎名義で本件マッサージ機の製造について所得税確定申告がされていたため、同人を犯則嫌疑者として調査が開始されたが、その後、事業の実態が明らかになるにつれて容疑事実が変遷したものと認められるのであって、右調査及び捜査の経過に格別不審はなく、右と右所論前段指摘の各証拠が、その内容から考えて、犯則嫌疑者の如何によってその信用性に大きな影響を受けるものとは認められないことに徴すると、右所論前段は採用することができず、また、被告人の自由も、その内容と右の本件調査及び捜査の経過に徴すると、右所論後段を考慮してもその信用性を疑わせるに足りないから、右所論後段も採用することができない。

(三)  所論は、控訴趣意補充一の4の(四)において、所論の根拠として、信一郎名義で本件マッサージ機の意匠権等の登録がされていることを挙げるけれども、右は、被告人の供述(昭和四六年二月二四日付検察官調書)のように、被告人が他から権利侵害等による損害賠償請求を受ける場合に備えて(所論はこのことは背理である旨主張するけれども、本件意匠権等に関することを言っているのではないから、所論はあたらない。)信一郎を表面上製造業者としておくためである(あるいは、信一郎が被告人の後継者であるからという単純な理由によるのかもしれない。)と考えられ、信一郎名義であっても、被告人が右意匠権による実質上の利益を享受することは充分可能であることを併せ考慮すると、右所論の事実を以て所論の根拠とすることはできないから、所論は採用することができない。

(四)  所論は、控訴趣意補充一の4の(五)において、所論の根拠として、信一郎が昭和三九年末に藤本幸子(以下幸子という。)、吉岡美恵(以下美恵という。)及び山崎田鶴に対して合計四、〇〇〇万円を分け与えたことを挙げるけれども、右のような金員贈与をしたのは被告人であることが証拠上明らかに認められるから、所論は、控訴趣意補充一の4の(七)の(3)において、昭和四六年一月二〇日付川崎典昭作成の(株)フジ医療器の公表売上金額および仕入金額についてと題する調査書類(検察官請求証拠番号一四七)は証明力がなく、右証拠に内在する矛盾は所論を裏付けるものであるというけれども、所論にかんがみ検討しても、格別右証拠の証明力を疑わせる点があるとは認められないから、所論は、前提を欠き、採用することができない。

右のとおりで、原判決に所論の事実誤認はないから、論旨は理由がない。

二  論旨は、つぎに、控訴趣意第一点の五において、原判示全事実につき右一の主帳が理由がないとしても、幸子、信一郎、美憲及び耕三が、原判示のように、被告人と本件犯行を共謀したことも、本件犯行に共同加功したこともないから、これらを積極に認定した原判決には事実誤認があるというのである。

そこで、所論にかんがみ、記録及び原審証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも併せ考察すると、原判決の挙示する証拠によると、(イ)本件マッサージ機の製造及び販売は、元元被告人の営む事業であったところ、会社設立後は本件当時を含め、販売部門のみを会社の事業とし、製造部門は被告人個人の事業としていたこと及び被告人は、販売及び製造部門を通じて生じた利益を両部門間で適宣調整して被告人個人に利益を集中させ、これを仮名の定期預金にするなどして秘匿したうえ、虚偽の過少所得税確定申告をして本件脱税を図ったものであること、(ロ)被告人は、そのため、会社の決算期に、前年度の申告所得額に少し加算する程度の所得額を定め、これを美恵及び耕三に指示して法人税確定申告書の作成を任せ、同人らは、これに見合うように仕入額を調整するなどして右申告書を作成する一方、被告人の指示により被告人及び信一郎名義の原判示のような各所得税確定申告書を作成していたこと、(ハ)幸子及び信一郎は、被告人の指示又は了解の下に、被告人の許に残った金を仮名の定期預金としていたことがそれぞれ認められ、右幸子ら四名が同族として右の事業に従事ないし関与していたことや右の各行為及びその他の証拠に徴して、右四名がいずれも右(イ)の事実を、右美恵及び耕三がいずれも被告人及び信一郎の右申告額が虚偽の著しく過少な額であること及び右(ハ)の事実を、また、幸子及び信一郎が右(ロ)の事実及び被告人及び信一郎の右申告額が虚偽の著しく過少な額であることをそれぞれおおよそ認識していたことが推認されるのであって、これらの事実を総合すると、幸子ら四名が、被告人と意思を通じ、本件行為に加担したとする原判示事実認定を肯認することができるのであり、所論にかんがみさらに検討しても、右判断を左右するに足る証拠はない。それで、原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

三  論旨は、さらに、控訴趣意第一点の六及び同補充二において、原判決が原判示の犯則所得認定の根拠とした貸借対照表の勘定科目である現金、定期預金、普通預金、受取手形、売掛金、たな卸商品、前渡金、立替金、建物等、仮受金、買掛金、未払金及び店主借の各金額(以下原判示の認定という。)はいずれも事実を誤認したものであるというのである。

そこで、所論にかんがみ、記録及び原審証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも併せ考察すると、原判決の挙示する関係証拠によれば、所論の点に関する原判示の各認定はすべて肯認することができる。原判決が、争点に対する判断の一の(六)において、本件所得の確定方法について説示するところは、肯認することができるのであって、右と本件所得の帰属に関する前判示及び原判示とを前提にすると、所論がその根拠として挙げるもののうち、本件製造部門における利益が、会社設立以前においては信一郎に、会社設立後においては会社にそれぞれ帰属することを理由として原判示の認定を非難する点は、いずれも理由がないことが明らかであるから、その余の主張について以下若干補足説明する。

足説明する。

所論は、現金につき、原判示の認定を肯認するに足る証拠はないと主張するけれども、原判示の認定に沿う被告人の供述(昭和四六年三月四日付及び同月九日付各検察官調書)は所論にかかわらず信用すべきものと認められ、その他の証拠と総合して原判示の認定を肯認することができるので、所論は採用することができない。

所論は、普通預金のうち所論指摘の二つの口座は、被告人以外の者が開設したもので、被告人のものではないと主張するけれども、いずれも原判示の認定に沿うもので信用できる被告人(昭和四六年三月八日付検察官調書)、信一郎(同年二月二四日付検察官調書)及び幸子(同年三月二日付検察官調書)の各供述によって、原判示の認定を肯認することができるから、所論は採用することができない。

所論は、前渡金のうち三明電機に対する六五、〇〇〇円はこれを認定するに足る証拠がないと主張するけれども、いずれも信用できる被告人の供述(昭和四六年三月六日付質問てんまつ書)、原審二九回公判調書中の原審証人西山芳之の供述部分(原判示の前渡金が被告人からの分であるかどうかは判然としない旨の部分は信用できない。)によって原判示の認定を肯認することができ、所論を考慮しても、右判断を左右するに足りないから、所論は採用することができない。

所論は、立替金のうちの車輌分・従業員分については、被告人が、会社に対して、立替える契約をしたことも、立替えたこともない旨主張するけれども、原判示の認定に沿うもので信用できる被告人の供述(昭和五六年三月一〇日付質問てんまつ書)等により原判示の認定を肯認することができるから、所論は採用することができない。

所論は、売掛金及び仮受金に関し、それらの計算の基礎となる会社の仕入単価の算定が杜撰であるから、原判示の認定は誤りである旨主張するけれども、所論にかんがみ記録を検討しても、原判示の認定に誤りがあるとは認められないから、所論は採用することができない。また、所論は、会社の売上除外の分について更正決定がされていないことから考えて、被告人の売上額に疑問がある旨主張するものと解されるけれども右の所論は、それ自体理論上正当であるとは認め難いから、採用することができない。

その他所論にかんがみさらに検討しても、前記判断を左右するに足る証拠はないから、原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意第二点(法令適用の誤りの主張)について

論旨は、原判示第一につき、本件犯行については、被告人が、原判示のように被告人名義で所得税の確定申告をした昭和四三年三月一一日から公訴の時効が進行するから、本件起訴時の昭和四六年三月一三日には公訴時効が完成しているのに、これを認めなかった原判決には法令適用の誤りがある旨主張する。

そこで、考察するに、所得税法二三八条にいう「所得税を免れ」というのは、租税債務の正しい履行がなく、所得税の賦課権が侵害されたことをいうものであり、また、原判示のように申告の差換えが可能であることから考えて、本件のような虚偽過少確定申告脱税犯の既遂時期は納期限経過時であると解するのが相当であり、かつ、本件において刑事訴訟法二五三条にいう「犯罪行為が終った時」というのは、脱税の結果発生時、すなわち右既遂時期であると解するのが相当であるから、本件公訴時効は原判示のように本件納期限経過時である昭和四三年三月一六日から進行するものと認められ、右を前提にすると、原判示の結論は正当であるから、原判決に所論の違法はない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 環直彌 裁判官 高橋通延 裁判官 野田毀稔)

昭和五六年(う)第一、八二四号

控訴趣意書

所得税法違反

被告人 藤本信夫

右被告事件につき、昭和五六年七月二〇日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し控訴を申し立てた理由は左記のとおりである。

昭和五七年一月二五日

弁護人弁護士 大槻龍馬

大阪高等裁判所第一刑事部

御中

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認ないしは法令解釈の誤りがある。

一、原判決は罪となるべき事実として、

被告人は、大阪市住吉区杉本一丁目五番七号において、フジ医療器製作所の名称でマッサージ機の製造業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、藤本幸子、藤本信一郎、吉岡美恵、吉岡耕三と共謀の上、

第一 昭和四二年分の所得金額が六四、六八五、一九七円、これに対する所得税額が三八、七三〇、七〇〇円であるのにかかわらず、税務調査に備えて事業収支に関する記録を作成せず、売上金から仮名定期預金を設定するなどの行為により所得を秘匿したうえ、大阪市阿倍野区阿倍野税務署において、同署長に対し、昭和四三年三月一一日被告人名義で、不動産及び給与所得金額が二、三七八、〇〇〇円、これに対する所得税額が五一、五〇〇円である旨、並びに同月一五日被告人の長男藤本信一郎名義で、事業所得金額が四五七、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税三八、二二一、三〇〇円を免れ、

第二 昭和四三年分の所得金額が一五八、二九四、三七一円、これに対する所得税額が一〇八、六二六、三〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により所得を秘匿したうえ、昭和四四年三月一五日前記阿倍野税務署において、同署長に対し、被告人名義で、不動産及び給与所得金額が三、三二三、〇〇〇円、これに対する所得税額が七六、四〇〇円である旨、並びに前記藤本信一郎名義で、事業所得金額が三、〇六九、六三七円、これに対する所得税額が八二七、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税一〇七、七二二、二〇〇円を免れ、

第三 昭和四四年分の所得金額が三〇六、六七九、六三二円、これに対する所得税額が二一九、二二〇、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により所得を秘匿したうえ、昭和四五年三月一六日前記阿倍野税務署において、同署長に対し、被告人名義で、不動産及び給与所得金額が四、五四〇、〇〇〇円これに対する所得税額が一二四、九〇〇円である旨、並びに前記藤本信一郎名義で、事業所得金額が四、〇九八、七五六円、これに対する所得税額が一、一九八、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税二一七、八九七、六〇〇円を免れたものである。

との事実を認定し、右認定の証拠として、

判示全事実につき

一、被告人の当公判延における供述及び同人作成の供述書並びに上申書二通

一、被告人の検察官に対する供述調書一四通

一、被告人に対する収税官吏の昭和四五年六月一八日付、同年七月一日付、同月七日付、同月二三日付、同年九月九日付、昭和四六年一月一四日付、同年二月八日付、同月一六日付、同年三月五日付、同月六日付、同月一〇日付、同月一一日付各質問てん末書

一、裁判所書記官作成の昭和四六年二月二五日付調書

一、藤本信一郎(五通)、藤本幸子(二通)、吉岡美恵、山崎喜清(二通)、山崎田鶴の検察官に対する各供述調書

一、藤本治子に対する収税官吏の質問てん末書

一、第六回、第七回、第二〇回公判調書中の証人藤本信一郎、第八回ないし第一一回、第一三回、第二一回公判調書中の証人藤本幸子、第一三回、第一四回、第二二回公判調書中の証人吉岡美恵、第一六回なし第一八回公判調書中の証人山崎喜清、第一九回公判調書中の証人山崎田鶴、第二七回公判調書中の証人小林五郎、第二八回公判調書中の証人樺木輝夫、第三〇回公判調書中の証人室谷茂、第三五回公判調書中の証人鶴野松大、第三七回公判調書中の証人野村司亮、第三八回ないし第四四回公判調書中の証人坂本八郎、第四五回、第四六回、第四八回公判調書中の証人川崎典昭、第四九回ないし第五三回公判調書中の証人森本信雄の各供述部分

一、証人藤本信一郎、同吉岡美恵、同森本信雄、同板橋元一、同吉岡耕三の当公判延における各供述

一、瀬川信吾、田中信義に対する収税官吏の各質問てん末書

一、山崎喜清、田中信義(二通)、樺木輝夫(昭和四五年八月五日付)、室谷茂、鶴野松大、(同月七日付二通)、藤田俊作(同年六月一八日付)、辻本尚夫、片岡幸雄(同年八月二八日付)、福田潤一、高橋二男、中井清三、田渕栄一郎、矢口禎男、谷川洋一、浅野重治、西村完二、猪口静男作成の各確認書

一、岡田幸夫、松本英彰作成の各供述書

一、加茂卓郎(七通)、植松直隆、周藤忠男、仁科悟、藤原幸子、堀北多恵子、山田千代子、日産プリンス南大阪販売株式会社、大阪市阿倍野区長、同市住吉区長作成の各回答書

一、阿倍野税務署長(被告人の昭和四三年分所得税確定申告書写)、住吉税務署長作成の各証明書

一、川崎典昭(請求番号一四八分を除く昭和四六年一月二〇日付のもの四通及び同月二一日付二通)、森本信雄(同月二一日付)、板橋元一(同月二五日付)、坂本八郎(昭和四五年一一月二七日付、請求番号一四〇の昭和四六年一月一〇日付のもの、同一四四の同月二〇日付のもの、同月二八日付)作成の各調査てん末書

一、野村司亮(二通内一通は同人他一名が作成)、板橋元一(昭和四六年一月二〇日付、同月二一日付、同月二六日付)川崎典昭作成の各調査報告書

一、福山寛、岩佐忠男作成の各現金預金有価証券等現在高検査てん末書

一、吉岡美恵作成の「給与賞与支給状況表」と題する書面

一、登記官作成の閉鎖登記簿謄本二通及び商業登記簿騰本

一、押収してある不動産権利 関係書類一二綴(昭和四七年押第一四九号の四)、雑書類一綴(同号の六)設立関係書類一綴(同号の一二)、東京フジ医療器設立書類一綴(同号の一三)、実用新案登録関係書類一綴(同号の四九)、医療用具製造業許可証一綴(同号の五〇)、電気用品取締法三条登録関係一綴(同号の五一)

判示第一の事実につき

一、第二六回公判調書中の証人中村守、第二九回公判調書中の証人岩国良平の各供述部分

一、浜上愛二作成の供述書

一、大槻一成作成の回答書

一、阿倍野税務署長作成の証明書二通(被告人及び藤本信一郎の各昭和四二年分所得税確定申告書写)

一、岩国良平作成の売上帳写

一、坂本八郎作成の昭和四五年一一月二五日付調査てん末書

一、押収してある松本組関係書類一綴(昭和四七年押第一四九号の五)、雑メモ綴(同号の一〇)、支払形控二冊(同号の一一)、確定申告書控(同号の三三)、銀行勘定帳二冊(同号の四三)

判示第一、第二の各事実につき

一、若宮彰に対する収税官吏の質問てん末書及び同人作成の供述書

一、森本信雄他二名作成の銀行調査報告書二通

一、阿倍野税務署長作 の証明書(株式会社フジ医療器の昭和四二年八月三一日期の法人税確定申告書写)

一、押収してある銀行勘定帳二冊(昭和四七年押第一四九号の四四)

判示第一、第三の各事実につき

一、大阪日産自動車経理部水垣作成の回答書

判示第二の事実につき

一、第三三回公判調書中の証人黒川清人の供述部分

一、樺木輝夫作成の昭和四五年一一月一一日付確認書

一、古川増雄作成の回答書

一、阿倍野税務署長作成の証明書二通(被告人及び藤本信一郎の各昭和四三年分所得税確定申告書写)

一、押収してある経費帳二冊(昭和四七年押第一四九号の九)

判示第二、第三の各事実につき

一、第二九回公判調書中の証人西山芳之、第三四回公判調書中の証人岡本修三の各供述部分

一、辻重治、大畑禎司に対する収税官吏の各質問てん末書

一、桜井章一、藤田俊作(昭和四五年六月二三日付二通)、片岡幸雄(同年一一月二五日付)、阿倍敏雄作成の各確認書

一、中村今朝美、清水健二、大久保明、三沢一夫作成の各供述書

一、株式会社金沢鍍金工業所、郷幸一、大阪市東淀川区長作成の各回答書

一、坂本八郎(請求番号一四五の一分の同月二〇日付)作成の各調査てん末書

一、倉中要三、坂本八郎作成の各現金預金有価証券等現在高検査てん末書

一、押収してある車両台帳一冊(昭和四七年押第一四九号の一六)、フジ医療器売掛帳モートル分一綴(同号の一八)、フジ製作所売掛帳一綴(同号の一九)、定期預金期日メモ一七枚(同号の二〇)、市内売上帳二綴(同号の二一)、得意先元帳二綴(同号の二六、二七)、銀行勘定帳二冊(同号の四五)

判示第三の事実につき

一、被告人に対する収税官吏の昭和四六年一二月二二日付質問てん末書及び被告人作成の確認書

一、第二八回公判調書中の証人樽田和昌、第三一回公判調書中の証人山出正吉、同橋本長周、第三二回公判調書中の証人森川泰吉、第三四回公判調書中の証人平田彰三郎、第三五回公判調書中の証人井上恵一の各供述部分

一、松井普、桜井章一に対する収税官吏の各質問てん末書

一、占部保芳、樺木輝夫、中栖金男、幡地直、松本清作成の各供述書

一、西山芳之、山崎敏男、川崎修造、山出正吉、橋本長周、片岡幸雄(昭和四五年一〇月二一日付)、小山田裕昭、竹内昭文、岸本卓司 青野清一、宮内基次作成の各確認書

一、樺木輝夫、坂田法宣、井上恵一、和田双美、星野智三、九鬼政雄、関元一郎、株式会社鳥羽洋行大阪支店松沢、平田タカ子、江見一男作成の各回答書

一、阿倍野税務署長作成の証明書四通(株式会社フジ医療器の昭和四三年八月三一日期及び昭和四四年八月三一日期の各法人税確定申告書写並びに被告人及び藤本信一郎の昭和四四年分所得税確定申告書写)

一、坂本八郎作成の昭和四六年一月一〇日付(請求番号一四五の二のもの)、同月二〇日付(同一四二のもの)、同年二月九日付の各調査てん末書

一、福井馨、森田琢磨、川崎典昭、森本信雄作成の各現金預金有価証券等現在高検査てん末書

一、押収してある納品書請求書領収書綴三綴(昭和四七年押第一四九号の一)、契約書一通(同号の二)、不動産売買契約書一通(同号の三)、売上帳一九冊(同号の七)、経費帳一冊(同号の八)、日本按摩機売上帳一冊(同号の一四)、手形受払帳一冊(同号の一五)、売上帳一冊(同号の一七)、木工部売上帳一綴(同号の二二)、大阪本社仕入レザー及部品(金具)帳一綴(同号の二三)、納品書控七冊(同号の二四)、領収書控一冊(同号の二五)、領収証、納品書綴三綴(同号の二八ないし三〇)、約束手形控三冊(同号の四六)を掲記している。

二、ところが原判決の右の判断は、以下詳述するように本件の国税査察官による調査及び検察官の捜査の各経過と関係者の供述変遷の状況との関係についての正しい埋解を欠き、幾多の争点について目を掩って審埋を尽くさずに所得税法一二条、三七条一項、商法二六五条、意匠法二〇条一項、二三条、一五条三項、実用新案法一四条一項、一六条、九条三項、特許法六六条一項、六八条一項、三五条、薬事法一二条、一八条の解釈を誤り、ひいては証拠の価値判断を誤りもって事実を誤認したものである。

三、事実関係の争点

本件の事実関係における争点は大別すると次の三点である。

1 本件起訴対象年度におけるマッサージ器の製造業は、被告人の個人企業であるのか、(株)フジ医療器の法人企業に含まれるのか。

換言すればマッサージ器の製造による所得は被告人に帰属するのか、(株)フジ医療器に帰属するのか。

2 かりにマッサージ器製造による所得が被告人に帰属するとした場合、その所得税の逋脱につき藤本幸子・藤本信一郎・吉岡美恵・吉岡耕三らとの共謀の事実の存否。

3 ならびに起訴状記載のような所得金額が認められるのかどうか。

という点である。

而して原判決は、右に対し

1については、マッサージ器の製造による所得は被告人に帰属する。

2については、五名共謀の事実が存する。

3については、訴因第三関係で買掛債務一、〇一七、八五〇円のみを新たに認め、起訴状記載の所得よりこれを減額する。

旨の判断を示した。

四、所得の帰属について

1 所得の帰属に関する被告人及び弁護人主張に対する原判決の誤解-事実誤認の根底

本件は、一般逋脱事犯のごとく犯則所得金額の多寡だけを争うものではなく、所得の帰属を争うものであるから、この点に関する被告人や弁護人の主張が認められ無罪の判決がなされたときは国家は莫大な租税債権を喪失することになることは明らかである。

しかも本件起訴対象年度の製造部門における所得が被告人に帰属しないときは、被告人が代表取締役となっている(株)フジ医療器に帰属し、同会社に多額の法人税の逋脱があったことになるが、現段階において遡及して同会社に対し法人税を賦課することは不可能である。

このようなことになれば税負担の公平の見地から著しく正義観に反するものであると考えるのが一般常識である。しかしながら本件は刑事事件であるから事実認定のうえにおいてはあくまでも疑わしきは被告人の利益にという鉄則に従わなければならないのは当然のことであって、行政的配慮によって右の鉄則が歪められるようなことは刑事訴訟の基本に悖るものといわねばならない。

ところで本件査察の強制調査は、昭和四五年六月一八日に着手されたが、(株)フジ医療器では、その後代表取締役藤本信夫名義で、昭和四五年九月四日付上申書(記録三一二九丁)及び同年九月一七日付上申書(記録三一三八丁)をもってアンマ器の製造及び販売による利益はすべて(株)フジ医療器に帰属する旨上申したうえ、これにそった修正申告を考慮していたが、担当査察官は右上申書は税率の高い所得税を回避して税率の低い法人税によって処埋をしてもらいたいため、わざと事実を歪めて上申するものであると曲解し、右上申に耳を籍さず、これを無視し、あくまでも所得税法違反事件として処埋すべく、犯則嫌疑者を被告人の長男藤本信一郎として証拠の収集を続けたうえ、最終的にはあえて被告人を犯則嫌疑者に立件替えして告発ならびに課税処分に及んだものである。従って本件調査に従事した国税査察官としては、本件の課税処分の選択において、あえて(株)フジ医療器に対する法人税法違反事件をとりあげないで、より多額の課税成績を挙げ得る被告人に対する所得税法違反事件としてとりあげたもので、後日(株)フジ医療器の法人税法違反と認定されたときは途中で差しかえることができないことを十分に承知していたものであるから本件刑事事件においては、純粋に証拠に基いて所得の帰属が判断されなければならず、無罪によって莫大な租税債権が喪失されることを配慮する必要は全くないものと考えられる。

然しながら弁護人は、(株)フジ医療器の代表取締役である被告人らに対し、本件につき無罪判決を受け被告人に対する所得税の納税義務が否定された場合には税負担の公平と正義の見地から(株)フジ医療器としての脱税額に見合う金額については自発的に良心に基いて国家への寄附等をなすべきことの説明に努め、その了承を取りつけたうえ原審の弁護に臨んだのである。

然るに原判決は「被告人は公判廷において、前記製造業は信一郎が実権を握る(株)フジ医療器の業務の一部門であり、同社の法人税の逋脱はあるものの被告人個人の所得税の逋脱は存在しないなどと主張して自己の刑責を回避せんとする態度が顕著であって反省がみられず云々」(二三丁裏)と判示し、被告人の右の弁解が夙に調査段階でなされていたことを無視し公判廷で筋の通らぬ言いわけをしているがごとく曲解し、脱税事犯に対する最近の厳しい世論の動向に押され、税収を上げんとする調査官の行政的意図に基く処埋の適否についての洞察を欠きその結果専ら右の意図によって無埋に作成された身柄拘束中の被告人の供述を基幹として事実を認定し、もって行政手続に対する掩護に走り、刑事訴訟の本則を忘却した判断をしているのである。

2 以上が所得の帰属に関する原判決の事実誤認の根底となるものであるが、さらに原判決は

(一) 被告人の経歴

(二) マッサージ機製造販売の経緯

(三) マッサージ機販売部門の法人化

(四) 事業の実態と事業内での被告人の地位

(五) 税金の申告状況等

(六) 仕入先の対外関係

(七) 会社個人間の経埋及び利益操作

(八) 売上金の管埋及び資産の留保

の各項目に分けて本件所得が被告人に帰属する埋由を判示しているので、これらの判断が法令の解釈の誤りないしは証拠の価値判断の誤りに基く事実誤認であることについては控訴趣意補充書において詳述する。

三、共謀の点について

1 本件所得が被告人に帰属しないものであることは前述のとおりであるが、かりに百歩を譲って被告人に帰属するとした場合でも、吉岡耕三らが被告人の右所得税の脱税行為に共謀したということについては共謀の事実ならびに共同加功の事実ともに証拠は全く存しない。

2 (株)フジ医療器の設立手続に関与し、従前藤本信一郎が経営していたマッサージ器の製造販売業を全面的に同法人の事業とすることとしながら、同法人の法人税を軽減して法人所得を秘匿するため表面上藤本信一郎の経営するマッサージ器の製造業からその製品を同法人が仕入れているように仮装することを計画したのは吉岡耕三であって、このことは同人が原審で証言しているところにより明らかであり、同人は被告人の所得税を逋脱する目的があったというようなことは徴塵も述べていない。同人の妻、吉岡美恵は(株)フジ医療器の取締役であるから、同人らにとってはむしろ同法人の簿外資産が多いことを希求するのが自然である。

また吉岡耕三以外の者の供述においても、同人が被告人の所得税逋脱の共謀に参画したことや、その実行行為をしたことを裏付けるものは全く存しない。

3 原判決は、結審間際の第六八回公判において検察官から訴因罰条の変更がなされたものを結審を急ぐあまり、従前の検察官のこの点に関する釈明回答や証拠関係を考慮することなくこれを鵜呑みしているのである。

六、犯則所得金額の確定について

1 弁護人は、早くから本件所得はあらゆる観点に立って考えても、本来存在する筈もない被告人の個人事業に帰属するものではないと確信しており、そのためその存在を前提とする検察官主張にかかる逋脱所得金額の算定方法が極めて観念的非合埋的なものになっていることを提摘し、その算定にあった国税査察官の原審における証人尋問に際してその都度各問題点について反問して来た。

2 原判決が犯則所得認定の根拠とした、貸借対照表の勘定科目である定期預金・受取手形・売掛金・たな卸商品・立替金・前渡金・機械・車輌・器具備品・土地・店主貸・仮受金・買掛金等に関する検察官主張の金額はいずれも観念的に作り上げられたものでこれらを確定するに足る証拠はない。

従って弁護人は原審において最後までこれらの点については、検察官の立証責任は尽くされていないものと考えていたところ、長期係属事件の結審を急ぐあまり原審は第六九回公判において、弁護人の主張は所得の帰属のみを争い、逋脱所得額については争わないものとしたうえ強引に審埋を進めようとされたため、弁護人は驚いてかりに所得の帰属に関する主張が認められない場合には当然検察官主張の所得金額を争うものであることを上申した次第である。

3 ところが原判決は、所得金額に関する争点のうち、僅かに負債勘定である買掛金の増加を認定しているだけで裁判官交代以前にあたる第五三回公判までの審埋過程において証人の取調がなされた争点(例えば売上金額の推定計算の根拠となっているモーター仕入数に関する証人西山芳之の証言、売上金・人件費・立替金等に関する坂本八郎・野村司亮・川崎典昭の証言等に表われているもの)については全く考量に入れていない。

また、坂本八郎査察官が、原始記録の存在即ち真実の売上金額の記載を無視した数字を和歌山分の売上及び仕入として吉岡美恵に確認させたメモ(符第三二号)を取り上げていない。

原判決は、第七一回公判(昭和五六年四月二〇日)において弁論を終結したに拘らず、同年六月一〇日職権で弁論を再開し、弁護人が従来不同意にしていた査察官調査書類(139 140 141 142 144 145 146 147 148 153)等につき証明力については十分吟味することをもって再考と訴訟進行への協力を求めたのであるが、弁護人がこれらを同意したものの証明力を争っている事項については判断を避けている。

4 原判決の逋脱所得額に関する事実認定は極めて杜撰であるというべく逋脱所得税額の誤認に関する詳細についてはさらに補充する。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令解釈の誤りがある。

一、原判決は、原判決判示第一の罪となるべき事実についての公訴時効完成の主張に対し次のように判決を示した。

所得税過少申告逋税犯の既遂時期は、申告納税制度をとる現行法のもとにおいて、納税義務者が法定申告期限までに過少申告をしたとしても、その後その納期限までに右申告を修正・訂正することが可能であり、右修正・訂正をして納税を完了すれば国の課税権は侵害されないのであるから、納税義務者が確定申告書を税務署長に提出した時ではなく、その後法定の納期限を経過した時であると解すべきである。(最高裁昭和三一年一二月六日決定刑集一〇巻一二号一五八三頁、同昭和三六年七月六日判決刑集一五巻七号一〇五四頁、東京高裁昭和五二年六月三日判決税務訴訟資料一〇七号九一〇頁など参照)。そして、所得税法一二〇条一項及び一二八条によれば、所得税については、その年の翌年二月一六日から三月一五日までの期間を確定申告期と定めるとともに同期間を納期と定めているのであるから、右既遂の時期は、被告人が自己の昭和四二年分の所得税につき昭和四三年三月一一日に所轄税務署長に対し過少申告をした時ではなく、その後同月一五日の法定の納期を経過した時であり、公訴時効の進行はその時から始まるので、結局同罪について公訴提起のあった昭和四六年三月一三日には三年の同罪の公訴時効(改正前の所得税法二三八条、刑事訴訟法二五〇条五号)は未だ完成していないことが明らかである。よって公訴時効の完成を埋由とする被告人及び弁護人の主張は採用できない。

二、ところで公訴時効の制度については、可罰性の減少と証拠の散逸とによって訴訟を追行することが不当となるからとする競合説が正しいとされている。

一般に期間の計算は被告人に有利に取扱うとするのが刑事訴訟の原則であって 時効期間の初日は時間を論じないで一日として計算されるのである。(刑訴法五五条一項但書)そうだとすると不正過少の申告書を提出する行為が最も悪性を高度に表現するものであり、その時が刑訴法二五三条にいわゆる「犯罪行為が終った時」にあたるものと考えられるから、その時をもって初日として計算することが相当である。(昭和二六年七月二〇日 大阪高裁判決)

右の行為時説に対し、納税期は、不正過少の申告も納期までは申告の差しかえができることを有力な論拠としており、原判決もこれに従っているが、本来公訴時効は個々の不正行為を対象とするものであるから、すべての行為の時効の始期が納期に統一されるというのは刑事手続と行政手続とを混同したものである。

原判決は、不正過少の申告書を提出した場合でも納期に至るまでは租税債権を侵害しないというが、右の見解は明らかに誤っている。

本来所得税は、計算が可能ならば所得発生の暦年度末までに納入すべきもので、源泉徴収制度や予定納税制度はでき得るかぎりその実現を図ろうとするものである。

従って所得税法が定める確定申告期間である翌年二月一六日から三月一五日までの間に逋脱の意思をもって過少の申告書を提出して所得税を納付し、もしくは同法一三一条一項所定の延納届出をなしたときは即時租税債権に対する侵害が発生したものと解すべきである。

いわゆる差しかえは障礎未遂に類するものではなく、一旦発生した法益侵害の自発的撒去に類するものであって、このような極めて稀有の例外的事例を仮定して刑事訴訟法が原則として被告人のために有利に定めている初日算入の趣旨に反する解釈をすることは許されない。

右の埋由により原判決は、改正前の所得税法二三八条一項の犯罪行為が終った時に関する解釈を誤ったものというべきである。

第三点 原判決には判決に影響を及ぼすべき法令違反がある。

一、原判決は第一点掲記のごとく罪となるべき事実を認定したうえ、その認定の資料として多数の証拠を列挙しているが、その中で判示第一、第二の各事実の認定資料として

森本信雄外二名作成 銀行調査報告書 二通

を掲記している。

右にいわゆる二通はいずれも昭和四六年一月二〇日付のものであり検察官請求証拠番号一二九及び一三〇のものと考えられる。

ところで右一三〇には次のような欠陥が存する。

1. (株)フジ医療品三和/南田辺、フジ製作所(藤本信一郎)に支払った内訳と題する表紙の次に編綴されているNo.1にはフジ製作所払(藤本信夫)と記戴され「信」の字は紙面が削られ書きかえられた形跡が見受けられる。

2. また書面完成日と認むべき前記一月二〇日の日付以降に作成したと思われる北択/大阪(46・3・3調)と記戴された書類が併せて編綴されている。

3. 右書類には国税犯則取締法施行規則一二条に定める毎葉の契印もなければ文字の挿入削除についての認印もない。

以上の理由により右書類は公務員作成の文書としての成立要件を欠くもので、刑事訴訟規則五八条・五九条の規定に著しく反するものであるからこれに証拠能力は認められない。

二、次に原判決が証拠として挙示している被告人の国税査察官に対する質問てん末書合計一二通は、国税犯則取締法一条に基く犯則嫌疑者に対する質問の際の応答を録取したものであるが、右質問は犯則調査に基くもので所得税法二三四条に定める通常調査ではないから憲法三八条の趣旨にそって供述拒否権を告知することを要する。

然るに本件においては右質問に際して供述拒否権が告知されていない。

さらに右のうち、昭和四六年三月五日付のもの及び同月六日付のものは大阪拘置所において、同月一〇日付のもの及び同月一一日付のものは大阪地方検察庁において、いずれも検察官によってなされた被告人の身柄拘束を利用してかかる質問がなされているのであるからこれらの証拠書類は違法な手続によって作成されたもので証拠能力を欠くものである。

なお本件告発の日時は不明であるが、かりに告発手続以後において国税査察官が勾留されている被疑者の取調をしたのであれば違法性は一層顕著である。

三、右の見地から弁護人は原審においてこれらの排除を申し立てたが原判決は右申立を容れないのみか前記のとおりこれを犯罪認定の証拠としているのであるから、原判決は、明らかに刑訴法三一七条に反するものであり、右調査書類等がなければ原判決認定の罪となるべき事実のうち逋脱金額等を認定することができないので右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

以上の理由により原判決を破棄のうえ、無罪の判決を贈るか、もしくはさらに複雑な計数の究明が必要であるから原審に差し戻し審理を尽くすべきものと思料し本件控訴に及んだ次第である。

追て、本件記録は六五〇〇丁余に及んでおり、控訴趣意書提出期限までに十分に検討する時間がありませんでしたので、追て控訴趣意補充書を提出させていただきます。

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